扉から少し離れた所につっ立っていると、2,3人の子供がやってきて「見たいんでしょ?」と声をかけてきて、扉を手間取りながら開けてくれて、その中庭に招き入れてくれる。左手前の扉から入った中庭の右奥の家の前に40人ほどの人たちが長い木のベンチに四角く腰かけ、また数人はその中で踊っている。その敷地の前でいつも果物を売っているお母さんが端っこに座っていて、ベンチに座るよう勧めてくれる。「写真はだめだよ。」。近くの子供が長さ30cmくらいの半分に割った一節分の竹を二本渡してくれた。四角の右手前に座る女性たちは皆同じようなものを持っていて、カンカンカン、、カンカンカン、、と一定の調子で叩く。それに歌っている。その歌は四角の中心で一人指揮をとる女性の歌いかけに応えるように続く。左手前には小さな鉦らしきものを速く叩く男性が二人、中くらいのタムタムを二本のバチで叩く少年が一人、大きなタムタムをL字型のバチで凄い勢いで叩く男性が一人。左手奥にはぎゅうぎゅうに集まって座る子供たち。中心から右手奥までは、リーダーらしき伝統衣装をまとった初老の男性を含めた数人の男性がそれぞれの椅子に座っている。
女性、子供、男性が二人ずつ次々に出てきて順番に踊る。「踊らないと。」とさっきのお母さんに言われて私も前に進み出て、見よう見まねで手足を振ってみる。女性たちの叩く竹と男性たちの鳴らす打楽器が作り出すポリリズムが段々と身体に馴染んでくる気がちょっとした。曲は静に止まって雑談になったり、リーダーのお話になったりして、また思い出したように次の曲が始まりだす。ひょうたんで作った器が回って皆が硬貨を入れていく。鉦を叩いていた少年がリーダーに呼ばれて、ジンの瓶を持って地面に少し撒いてから、時計回りに注いで回る。指揮をとる女性が猿の真似するみたいに高い声を上げて、トランス状態になったようだ。そのうちその場を離れて部屋の中に入ってしまったと思ったら、数分後に鮮やかな色の衣装に着替えて、顔を派手に化粧して再登場。何かストーリーのある儀式なのかと思うが、みんなのやり取りはフォン語で、フランス語で隣の女性に尋ねてみたら「毎週日曜日の夜にやってるんだよ。」と教えてくれた。次の曲が始まり、また泥だらけになってしまった足を少し思い出して、「この曲が終わったら部屋に戻ろう。」
違う世界に出会ったわくわくとすくみと。世界は一緒じゃないという豊さに対して感じる嬉しさと不安と。早めに切り上げてきて部屋で考えている自分の耳に、まだ外からの歌声と鳴り物が聞こえている。